胡蝶之烏(こちょうのからす)

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夢はうつつ、現こそ夢。さあ物語を始めよう。

僕はそもそもあまり夢を見ない。理屈としては覚えていない夢ばかりを見ているのだろうと思うけれど、いずれにしても朝起きたとき、夢を覚えていることはほぼなかった。

あの日までは――。

一人の少年が夢を渡り、かの王国へとたどり着いたその日、物語は呼吸を始める。

夢は現、現こそ夢。さあ物語を始めよう。

解説

現代八嶋やしまと夢の王国“胡蝶こちょう”を行ったり来たりしながら、呪われた姫の呪いを解くため主人公ズが奔走する物語、……と言うといかにもなベッタベタ現代ファンタジーなのに、なぜか王道の匂いがしない現代ファンタジーです。主要八人の視点から一連の出来事を描写する群像劇形式を採用しています。ネット公開なし、書籍本のみの公開となります。

試し読み(『前書き』より抜粋)

 胡蝶の夢、という故事があります。古き中国の思想家、荘子が見た夢のお話です。
 以前のこと、荘子は自らが蝶となる夢を見ました。蝶となった荘子はしばらくひらひらと空を舞い、そこで目が覚めたのだそうです。
 目覚めた荘子は、果たして自分は蝶となった夢を見たのか、それとも人である自分こそが、蝶である自分の見ている夢なのか、と自問し、こう結びました。
 人であっても蝶であっても、私であることに変わりはない、と。

 胡蝶の夢。荘子の故事を指すと同時に、現実なのか夢なのか、区別のつかない物事を指す言葉でもあります。いずれの御時、そして誰が名付け親であったのか、今となっては誰にもわからないことではありますが、私たちの王国を指して、胡蝶、と名付けたの人は、どちらこそをうつつと思したのでしょうか。

 夢路の果ての白き国、あるいは夢と現の狭間。これから始まります物語は、胡蝶、と名付けられた王国の物語です。申し遅れましたが、わたくしの名は真帆子。気恥ずかしながら、雨之宮あまのみやの巫女姫と、呼ばれた日々もありました。

 私たちのもう一つの故国、悲しくも美しき愛しき胡蝶は、今はもうありません。私たちが語り継いでも、いずれは時と共に夢と消えるのでしょう。それでいいのよ、と私の母、脩子ながこなどは申します。
「痛みも涙も、苦しみも、振り返れば愛おしい日々だった。そんな想いに看取られた国よ。そして最期は夢と消えるなら、これ以上の最期などないでしょう」
 過ぎた郷愁は妄執の種よ、と、母は私を諭し、微笑みました。

 物語の受け手、私たちより後の時代を生きる、親愛なる読者のあなた。あなたの目に、この物語はどう映るのでしょう。
 ある少年の英雄譚? 運命に抗う恋物語? 真実を求める流離譚?
 いずれにしてもこの物語は、それぞれの想いを胸に胡蝶を駆けた、少年少女たちの記録であり、胡蝶が在った証なのです。

 さあ、物語を始めましょう。
 これは胡蝶の物語。私たちの想いと記憶、そして、千年の呪いとの、戦いの物語です。
 長いお話となりますが、どうぞ最後までお付き合いください。

 松花しょうか元年 雨之宮真帆子

書影

刊行情報

『胡蝶之烏』

BOOTHにて頒布中

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